擬声語と擬態語について
1. はじめに
人はそれぞれ異なる文化の持っている環境で生まれ育ち、異なる言語を毎日話している。言葉の通じない二人がコミュニケーションを取るのが難しいと思いがちだが、そうでもないと思う。なぜなら、言葉や文化が違っても、人としての感覚は共通しているからだ。こういった感覚を言葉にすれば、母語が違う二人でも共感できる。その言葉が「擬声語」と「擬態語」である。今回のレポートでは、日本語の「擬声語」と「擬態語」の例を挙げ、その特徴を説明し、さらに中国語の「擬声語」と「擬態語」と対照する。なお、「擬声語」と「擬態語」はコミュニケーションにおいて、どのような効果があるかを説明していきたい。
2.先行研究
2.1擬声語と擬態語とは
「小学漢字辞典」によると、物の音や動物の鳴き声をまねて、表すことばは擬声語といい、物ごとの様子や状態を、それらしく表したことばを擬態語とよぶ(小学漢字辞典;521)。つまり、自然の中の音を描写する言葉が擬声語であり、状態を描写する言葉が擬態語である。この二種類の言葉を合わせて「オノマトペ」という(泉1976)。このような言葉は現代だけではなく、昔の文書の中でも多く使われていた。例を挙げると以下のようなものがある。
① [endif]ほいやりと笑顔して(古典に見える擬声語・擬態語「大辞林特別ページ」言語の世界1-14/擬声語・擬態語)
② [endif]けいけいほろろのきじの声(古典に見える擬声語・擬態語「大辞林特別ページ」言語の世界1-14/擬声語・擬態語)
上記の文の「ほいやり」や「けいけい」というのがそれぞれ擬態語と擬声語である。もちろん、現代文の中でも擬声語と擬態語を見かけるのが珍しいことではない。例えば日常生活の中でよく使う「犬がワンワンと吠える」や「ひよこがピョーピョーと鳴く」などが挙げられる。さらに犬を「犬」ではなく、犬の吠える時の擬声語「ワン」を使い「ワンちゃん」と呼ぶ人も大勢いる。なぜなら、「犬」という言葉よりも「ワンちゃん」という言葉を使ったほうが犬の可愛さが増すと感じるからである。これがオノマトペの特徴の一つである。また、漫画やテレビ番組でよく見られる吹き出しにもこういったオノマトペが出現する。もともと動かない絵にオノマトペを付けるだけで、私たち読者が絵以外の情報を得ることができ、動いているかのように私たちが捉えるのである。これがオノマトペのもう一つの効果「雰囲気を作る」という。最後は、「はじめに」でも述べたように、もともと言葉の通じない二人を繋がるということである。
2.2擬声語と擬態語の分類
2.2.1日本語の場合
金田一(1978:13-14)は、「擬音語·擬態語概説」(浅野(1978)『擬音語·擬態語辞典』所収)において、以下のように分類している。1.擬音語……外界の音を写した言葉擬音語……無生物の音を表すもの ザーザー ガチャー擬声語……生物の声を表すもの ワンワン ぼそぼそ2.擬態語……音をたてないものを、音によって象徴的に表すもの3.擬態語……無生物の状態を表すもの きらきら ごたごた4.擬容語……生物の状態(動作の様態)を表すもの うろうろ5.擬情語……人間の心の状態を表すようなもの いらいら 金田一(1978)は、「擬音語」をさらに「擬音語」と「擬声語」に分け、「擬態語」をさらに「擬態語」「擬容語」「擬情語」に分けている。
現代日本語の擬声語と擬態語の形について、山口(2002)はA、Aッ、AンAー、AA、AッA、AッAッ、AンAン、AーAー、AB、ABッ、ABン、ABリ、AッBリ、AンBリ、ABAB、ABBの語型が詳しくに分けていると述べている。これらの語は、「と」を伴って連用修飾語として機能することが多い。
音韻の構造形式から見ると、田守·スコウラップ(1999)は、1モーラの語基を持つもの(CV、CVQ、CVN、CVVQなど)と2モーラの語基を持つもの(CVCV、CVCVQ、CVQCVriなど)など語基のモーラ数によって、17種類に分け、さらに、反復形や変種のものを羅列している、この中のオノマトペはCVCV型のものが最も多い。
2.2.2中国語の場合
現代中国語での擬声語の分類は音を出す主体によりカテゴライズされる場合が多い。例えば人、動物、自然、物事、音の性質(ぶつかり、摩擦、叩き)といった五つの分類があげられる(李镜儿2006:49ー64)。擬態語についての分類研究はあまりないようだ。
現代中国語の擬声語と擬態語の形について、A形、AA形、AB形、AAA形、AAB形、ABA形、ABB形、ABC形、ABAB形、AABB形、ABAC形、ABCB形、ABCD形、ABBB形に分けられる(李镜儿2006:70-75)。
音韻の構造形式から見ると、1モーラ、2モーラ、3モーラ、4モーラに分類している。中国語の擬音語では、CVタイプのことばが最も多い、一方、VCタイプが最も少ない。2モーラのオノマトペでは、CV + CVが一番多いと言われている(李镜儿2006:77-80)。
2.2.3まとめ
以上のから、日本語でも中国語でもオノマトペは豊富であり、特にCVCV型のオノマトペは中国語でも日本語でも出現する割合が高いと分かった。
2.3擬声語と擬態語の活用
田嶋香織(2006:195-197)は「オノマトペ(擬音語擬態語)について」の中で、擬声語と擬態語の活用が5つを分けていた。この5つは「動詞として」(例えば:にこにこする)「形容詞として」(例えば:ツルツルのお肌)「副詞として」(例えば:ガタガタ言う)「名詞として」(例えば:ドキドキが欲しい)「幼児語としてのオノマトペ」(例えば:ブーブーで遊ぶ)である。
張(1999:69)は「中国語と日本語の擬声語と擬態語」の中で、中国語の擬声語と擬態語の語根が3つを分けていた。この3つは「語根は名詞として」(例えば:水汪汪)「語根は形容詞として」(例えば:静悄悄)「語根は動詞として」(例えば:闹哄哄)である。だが、中国語のオノマトペは上述したように語根が三つに分けられるにも関わらず、語の構造がABB形になると、全部形容詞と見なされる場合がある。例えば、「水汪汪」の語根(「汪」)は名詞であるが、「汪汪」にしたら形容詞になる。
以上から、日本語のオノマトペの使い方が多様であるのに対し、中国語のオノマトペは主に形容詞として使われることが多いと考えられる。
3.研究方法
本研究の方法では文献調査を行う。又は日中の擬声語と擬態語分けて分析する。
4. 調査結果と分析
4.1擬声語の調査と分析
先述により、中国語でも擬声語と擬態語がある。その中、日本語と同じ発音をする言葉もあれば、違う発音をすることばもある。例えば、犬の吠え声の「ワンワン」は中国語で言う場合も「汪(wang)汪(wang)」という。一方、カエルの鳴き声は日本語で「げろげろ」というに対し、中国語では「呱(gua)呱(gua)」と発音する。ほかにも多くある。最近では違う国の人たちが集まり、それぞれ母国語のオノマトペを発音し、面白がるようなビデオが流行っている。
違うのが発音だけでなく、語の構成も異なる。日本語はカタカナで表示することがほとんどで、組み合わせが多いというのが特徴である。例えば「ABAB」型の「ガンガン」、「バタバタ」、「Aい」型の「ぷい」、「ABん」型の「ぽかん」などが挙げられる。また、カタカナの濁音化することで、音の大きさや状態の程度を表すという表現もある。例えば、机を軽く叩く時の「カンカン」と力強く叩く時の「ガンガン」などが挙げられる。一方、中国語のオノマトペはそんなに多様ではないと言えるだろう。中国語は漢字だけで表現するのと音に使う言葉があまり多くないというのが理由であろう。だが、ある音に対し、中国人と日本人の捉え方が一緒であれば、字が通じなくとも、発音が通じるため、コミュニケーションができると考えられる。
4.2擬態語の調査と分析
前の2.3により、日本語と中国語の活用は非常に豊富である。しかし、具体的な文の中でどうのような効果があるか、以下の例で分析する。
例①:
てくてく歩く――一步步地走
すたすた歩く――急忙忙地走
ぶらぶら歩く――闲闲地走
とぼとぼ歩く――慢腾腾地走
例①から見ると、中国語の擬態語の特徴は「叠词」(AA形)を使う(形容詞になる)。歩く時の状態を表すというのが特徴である。日本語では多くのオノマトペが副詞として使われ、同じく歩く時の状態を表すが、語の分類が中国語と異なっている。
例②:
日本語:なべに煮込んである肉からいい匂いがぷんぷんする。
中国語:锅里炖的肉发出香喷喷的气味
例②の中の「ぷんぷん」と「喷喷」はどちらでも2モーラ構成で、さらに、どちらにも「p」という子音がある。香りがよく、鼻にまっすぐに伝わるイメージがつく。字が通じなくとも、「ぷんぷん」と「香喷喷」のモーラを通じて共感できると思う。
纏めていうと、日本語と中国語の間では文法表現の異なる語が存在するが、モーラや語の位置により、異なる言葉を共感することもありうると考えるだろう。
5.終わりに
こういった魅力的なオノマトペについて名古屋大学の杉浦(2001)が擬音語と擬態語が日本語学習者にとっては不可欠な学習内容であるにも関わらず、現在日本においてはこういった教育が十分に扱われていないと述べている。母語が違う中国語と日本語は擬声語と擬態語を通じ、共感できると考えられる。将来の可能性としては、オノマトペの教育にもっと力を入れ、このような魅力的な言語を国際的な交流にもっと取り入れることで日本語の美を伝えると同時に国際理解も促進されるのであろう。
参考文献
"古典に見える擬声語・擬態語「大辞林特別ページ」言語の世界1-14/擬声語・擬態語".
http://daijirin.dual-d.net/extra/giseigo_gitaigo.html(参照 2019-12-6)
金田一春彦「擬音語·擬態語概説」[M]//浅野鶴子『擬音語·擬態語辞典』東京角川書店,1978:13-14.
「小学漢字辞典」改定第6版 学研プラス(2019.12.10)
田嶋香織「オノマトペ(擬音語擬態語)について」『関西外国語大学留学生別科日本語教育論集巻16』195-197(2006)
田守育啓「オノマトペ擬音·擬態語を楽しむ」[M].東京岩波書店,(2002)
山口仲美「犬は『びよ』と鳴いていた日本語は擬音語・擬態語が面白い」光文社新書(2002.8.20)
山口治彦「さらに五感で味わう」[M]//『瀬戸賢一.ことばは味を超える美味しい表現の探求』東京海鳴社2003:120-153.
羅理論、杉浦正利「擬音語@擬態語のハイパーメディア教材の開発とその効果」『国際開発研究フォーラム』17-30(2001. 3)
李镜儿「現代漢語擬声詞研究」8-130(2006.4.10)
張漢英「中国語と日本語の擬声語と擬態語」『湖北大学学报第26卷』69-70(1999.9)