小王子 第二章 羊(九ー十三)
小王子 第二章 羊(九)
王子様はポケットから羊の絵を取り出して、大切そうに眺めていた。(眺めるーながめる)
「君はどこから来たの?その羊をどこへ連れて行くつもりなの?」
「この箱がいいのわね。夜になると、羊の小屋(こや)になるって所だよ。」
「そうだね。いい子にしていたら、昼間羊を繋いで(繋ぐーつなぐ)」おくの?可笑しいよ、そんなの。」
「でも、繋いでおかなかったら、勝手にあちこち歩き回って、どこかいなくなっちゃうだろ。」
すると、僕の友達はまた笑い出した。
「羊がどこへ行くっていうのさ。」
「どこにでも。ずっとまっすぐ歩いていって...」
「大丈夫だよ、僕の所は本当に小さいからね。まっすぐに行っても、そんなに遠くには行けないよ。」
小王子 第二章 羊(十)
こうして僕は、二つ目のとても大切なことを知った。王子様のいた星は、家一軒(いっけん)よりやや大きいくらいの大きさなのだ。
それほど驚きはしなかった。地球や木星(もくせい)や火星(かせい)や金星(きんせい)のように名前のある巨大(きょだい)な星以外にも、望遠鏡(ぼうえんきょう)でも見つからないほど小さな星が何百とあることを知っていたからだ。天文学者(てんもん)(がくしゃ)がそんな星を発見すると、名前の代わりに番号を付ける。例えば、小惑星(しょうわくせい)325と言ったように。
小王子 第二章 羊(十一)
王子様がやって来た星は、小惑星B612だと思う。1909年にトルコの天文学者が一度だけ望遠鏡で観測(かんそく)した星だ。
天文学者は国際天文家会議で自分の発見について堂々(どうどう)と発表した。しかしその時は、服装のせいで誰にも信じてもらえなかった。大人なんて、そんなもんだ。
しかし、小惑星B612に名誉(めいよ)挽回(ばんかい)の幸運(こううん)が訪れた。トルコの独裁者(どくさいしゃ)が国民にヨーロッパ風の服を着るように命令し、従わなければ(従うーしたがう)死刑(しけい)ということになったのだ。そこで天文学者は、1920年、今度はもっと洗練(せんれん)された服装で同じ発表を繰り返した。この時はみんなが彼の言うことを信じた。
小王子 第二章 羊(十二)
この星のことをこんなに詳しく話して、番号まで教えるのは大人たちのせいだ。大人は数字が好きだ。数字以外には興味がない。新しい友達のことを話しても、どんな声か、どんな遊びが好きか、蝶々を集めているか、と言った大切なことは何も聞いて来ない。何歳か、何人兄弟(きょうだい)か、お父さんの年収(ねんしゅう)はいくらか、と言った数字のことばかり聞いてきて、それですっかり知ったつもりになる。
王子様は本当にいたよ。可愛かったし、笑っていたし、羊を欲しがっていた。だって、羊を欲しがるってことは、間違いなくその人が本当にいるってことの証拠だからね。
こんなふうに話しても、大人は肩(かた)を竦め(竦むーすくむ)、子供扱い(あつかい)するだけだ。
小王子 第二章 羊(十三)
しかし、「王子さまが来た星は小惑星B612だよ」と言えば、大人は納得して、それ以上余計なことは聞いて来ない。大人なんてそんなもんだ。でも、悪く思ってはいけないよ。子供は大人に対して、広い心で接してあげなきゃね。
でも、生きるということがどういうことなのかよく分かっている僕たちには、数字なんかどうでもいい。
本当だったら僕は、この物語をお伽話(とぎばなし)のように始めたかった。